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原作:小川洋子
監督:小泉尭史 2006年 数学に人生をささげて生きていたのに交通事故で脳に障害を負い記憶が80分しか持たなくなった博士とシングルマザーのピュアな交流の物語。 概ね原作の雰囲気を損なわないで、数式の解説までもが叙情的で美しい物語になっていた。原作の多くを構成する数式に関するエピソードや古いベースボールカードの探索はすっかりはしょられていて、博士も若い設定になってるし、未亡人との関係もオリジナルに掘り下げてあってよりメロドラマ感は増幅されていたけれど、まあ、そういう点はしょうがないかな。 終盤、博士と未亡人が薪能『江口』を観に行くエピソードが加えられていた(先日のTV放映時にはカットされたらしい)。伏線で、未亡人の客間や博士の部屋にも能面の額が掛かってたし昔の事故も興福寺薪能を観にいった帰りに会ったという説明がされている。『江口』の内容忘れちゃってるので検索したけど、まあ禁断の恋の苦しみからの解脱、ということですかねえ。それを観て、未亡人は博士との昔の恋の呪縛から解放され、家政婦と息子と和解できたということなんだろう。家政婦も若気の至りで間違ちゃった恋の末に息子を産んで育ててるわけだし。 『江口』を加えたことは監督の趣味なのか。薪能の場面はとても宜しかったのだが、そのお陰で個人的にはエピローグでいきなり原作とかなり違った印象になってしまった。数式と野球と純粋な人間関係だけで行って欲しかった。薪能のシーンはなくても破綻はないけれど、それに引っかかっちゃうと、もう駄目という状態。 薪能の観客に原作者の小川洋子さんがさりげなく混ざっていたね。 浅丘ルリ子。 以前は全く感心の無い俳優だったけど、TVドラマ『すいか』のお陰で俄かに注目の人になった。 痩せすぎ、化粧濃すぎ、だけどしょうがないのだよね。この映画では微妙な色合いの無地の紬と染め帯が素敵。あの帯ほすい(また言ってる)。色半襟は地方のお金持ち未亡人ぽくないのではないか、と突っ込みたいけど。半襟は白がいい。 そういえば、蜷川幸雄演出『にごり江』では素晴らしかった。中継録画をみただけなのだが。
by kororogi2
| 2007-05-30 23:59
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